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名言No.196 ナジェージダ・マンデリシュターム

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本日の名言

The fear that goes with the writing of verse has nothing in common with the fear one experiences in the presence of the secret police. Our mysterious awe in the face of existence itself is always overridden by the more primitive fear of violence and destruction.

Nadezhda Mandelstam

日本語訳

詩を書くことに伴う恐怖は、秘密警察の前で感じる恐怖とは何の共通点もありません。私たちが存在そのものに対して抱く神秘的な畏怖は、常により根源的な暴力と破壊への恐怖に覆い隠されてしまいます。

ナジェージダ・マンデリシュターム

構造分析

文1: “The fear that goes with the writing of verse has nothing in common with the fear one experiences in the presence of the secret police.”

  • 主語: “The fear that goes with the writing of verse”(詩を書くことに伴う恐怖)。
  • 動詞: “has”(~を持っている)。
  • 目的語: “nothing in common with the fear one experiences in the presence of the secret police”(秘密警察の前で感じる恐怖との共通点を全く持っていない)。
  • 修飾句: “that goes with the writing of verse”(詩を書くことに伴う)。

文2: “Our mysterious awe in the face of existence itself is always overridden by the more primitive fear of violence and destruction.”

  • 主語: “Our mysterious awe in the face of existence itself”(存在そのものに対する私たちの神秘的な畏怖)。
  • 動詞: “is overridden”(覆い隠される)。
  • 副詞句: “always”(常に)。
  • 補語: “by the more primitive fear of violence and destruction”(より根源的な暴力と破壊への恐怖によって)。

主な単語の品詞・働きと日本語訳

単語品詞と働き日本語訳
fear名詞(不可算名詞)・主語、目的語恐怖
goes動詞(自動詞)・修飾句 “that…verse” の述語伴う
writing名詞(動名詞)・”of verse” を伴う書くこと
verse名詞(不可算名詞)・”of” の目的語
has動詞(他動詞)・述語持つ
nothing名詞(不可算名詞)・”has” の目的語
common名詞(不可算名詞)・”in” の目的語共通点
experiences動詞(他動詞)・従属節の述語経験する
presence名詞(不可算名詞)・”of the secret police” を修飾存在
secret形容詞・”police” を修飾秘密の
police名詞(集合名詞)・”of” の目的語警察
awe名詞(不可算名詞)・主語畏怖
face名詞(不可算名詞)・”in the face of” の一部
existence名詞(不可算名詞)・”of” の目的語存在
overridden動詞(他動詞)・受動態の述語覆い隠される
primitive形容詞・”fear” を修飾根源的な
violence名詞(不可算名詞)・”of” の目的語暴力
destruction名詞(不可算名詞)・”and” を伴う並列目的語破壊

句動詞、イディオムほか

go with: 「~に伴う」という意味の句動詞。

in the presence of: 「~の前で」や「~が存在している状態で」を意味する表現。

in the face of: 「~に直面して」や「~に対して」を示すイディオム。

is overridden by: 「~によって覆い隠される」という受動態表現。

人物と背景

ナジェージダ・マンデリシュターム(Nadezhda Mandelstam, 1899 – 1980) は、ソビエト連邦の作家、教師であり、詩人オシップ・マンデリシュタームの妻としても知られる人物です。彼女は夫の詩や文学作品を守り、弾圧の中でその遺産を未来へと受け継ぐために尽力しました。その人生は、政治的抑圧と個人の自由への闘いが交錯したものでした。

ソビエト時代、オシップ・マンデリシュタームはスターリン体制への批判詩を発表し、その結果として逮捕され、追放されました。ナジェージダは夫が収容所で亡くなった後も、その作品と記憶を守る活動を続け、自らの回想録『希望の証言(Hope Against Hope)』と『記憶の証言(Hope Abandoned)』を執筆しました。これらの書籍は、スターリン時代の恐怖政治を生々しく描き出し、現代における貴重な歴史的証言として評価されています。

ナジェージダの生涯は、言論と創造の自由が抑圧される時代において、それを守るためにどれだけの犠牲が伴うかを示しています。彼女の著作は、真実を追求し、記録することの重要性を私たちに教えてくれます。

解説

暴力、破壊、そして詩――存在と恐怖の狭間で

「詩を書くことに伴う恐怖は、秘密警察の前で感じる恐怖とは何の共通点もありません。私たちが存在そのものに対して抱く神秘的な畏怖は、常により根源的な暴力と破壊への恐怖に覆い隠されてしまいます。」この言葉を残したナジェージダ・マンデリシュタームは、私たちが抱える日常的な恐れと、人間の深層にある存在そのものへの畏怖を見事に対比させています。この考えは、20世紀の独裁政治や弾圧の時代に生きた彼女が、どのように人間の本質を洞察していたかを物語っています。

詩を書く恐怖――創造の苦しみ

詩を書くこと、それは魂と向き合い、自分の内面を言葉に昇華させる行為です。このプロセスには、美しさや喜びだけでなく、大きな苦痛や恐怖も伴います。それは、自己をさらけ出し、言葉の中に自分自身を刻み込む行為だからです。書くことで世界に放たれる言葉は、自分自身の無防備な側面をさらけ出すことでもあり、それが内的な恐怖を生む要因となります。

詩を書く恐怖とは、外的な圧力や物理的な脅威から来るものではありません。それは自己の存在と向き合う中で生じる恐れであり、人間の内面的な戦いを象徴しています。彼女が語る「詩を書く恐怖」は、創造性と個人の精神がどれほど密接に結びついているかを示しています。それは、単に言葉を紡ぐだけではなく、詩人が自分自身の存在を問い、見つめるプロセスそのものなのです。

暴力と破壊の恐怖――生存本能がもたらす影響

一方で、マンデリシュタームが指摘するもう一つの恐怖、それは「暴力と破壊への根源的な恐怖」です。この恐怖は、人間が生物として持つ生存本能から来るものであり、私たちの中で深く根付いています。物理的な痛みや死への恐れは、思考や創造を超えて私たちの行動に直接的な影響を与えるものです。

例えば、秘密警察という言葉が持つ重みを考えてみましょう。これは、単なる組織の名前以上に、抑圧、監視、恐怖を象徴する存在です。特に、スターリン時代のソビエト連邦における秘密警察の活動は、マンデリシュターム夫妻をはじめ、多くの文化人や思想家に恐怖を植え付けました。このような暴力的な環境下で人々が抱える恐怖は、詩を書くという内面的な恐れとはまったく異なるものであり、直接的な危険がもたらす原始的な感覚なのです。

存在に対する神秘的な畏怖とは

彼女の言葉には、もう一つ重要なポイントがあります。それは、「私たちが存在そのものに対して抱く神秘的な畏怖」です。この畏怖は、日常的な恐怖や危険とは異なり、人間が持つ知的好奇心や想像力から生まれるものです。それは、宇宙の広大さや自然の美しさ、人間の生命そのものが持つ不可解さに対する感情です。

この畏怖は、人間に深い感動を与えると同時に、自分の小ささや無力さを痛感させることもあります。それは、私たちが自分の存在意義を問い直すきっかけとなる感情であり、詩や芸術の創造の原動力ともなるものです。詩人たちがその感情を言葉として紡ぐことは、この畏怖を世界と共有する試みなのです。

恐怖と向き合うための道

ナジェージダ・マンデリシュタームの言葉が示すように、私たちの生活にはさまざまな恐怖が存在します。しかし、そのすべてが否定的なものではなく、自己理解や創造力を引き出す重要な要素でもあります。詩を書く恐怖は、自己の内面を掘り下げる機会を与えてくれます。一方で、外的な暴力や破壊への恐怖は、人間としての基本的な生存本能を刺激し、私たちが何を守り、何を目指すべきかを教えてくれます。

私たちがこれらの恐怖を完全に消し去ることは不可能です。しかし、これらに対してどう向き合うかが重要です。詩人や芸術家は、自分の恐怖を創造に変える術を知っており、その成果を世界に届けることで、他者と共感し、新たな視点を提供してくれます。

まとめ――恐怖の中にある光を探して

彼女の言葉は、私たちに恐怖という感情を再評価する機会を与えてくれます。それは単に避けるべきものではなく、人間の本質を知るための窓口でもあります。詩を書く恐怖も、暴力や破壊の恐怖も、それぞれが異なる次元で私たちに働きかけ、成長や自己理解のきっかけとなるのです。

これからの時代において、私たちが恐怖とどう向き合うかは、社会や文化の未来を大きく左右するでしょう。ナジェージダが生きた時代の教訓を胸に、私たちは恐怖を否定するのではなく、それを力に変える方法を見つけていかなければなりません。その中で、詩や芸術が果たす役割は、これからも変わらず大きなものとなるでしょう。

関連資料

『Hope Against Hope』紙版